yigarashiのブログ

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エンジニアリングマネージャーの最初の学び - このロールは何なのか

2023/6/16付の人事異動で正式にエンジニアリングマネージャー(以下EM)になりました。2021/8に「エンジニアリングマネージャーを目指す若者の戦略」という記事を書いて明確にEMを目指し始め、2022/12には「EMキャリアを切り拓く「最強の現場リーダー」という働き方」という記事でEMに近づく様子を書きました。さらにそこから半年余り、ついに会社からも正式にEMと呼ばれることになりました。実際には3ヶ月ほど前から強くEMを志向した動きにはなっていましたが、やはり正式な職位は特別なもので、キャリアにおける重要な実績をひとつ解除したと感じています。

これほどEMというロールを志向し色々とやってきたのですから、EMとしての振る舞いもさぞスムーズに立ち上がるかと思いきや、実際にEMとして動くのは非常に難しいことでした。書籍やブログ記事を読んで頭で理解したEMという働き方と、自分がチームでEMとして振る舞うということの間には大きなギャップがありました。3ヶ月ほど苦しんで、最近ようやく自分の中で「EMとは何なのか」という問いに整理がつき始めたので、この記事ではそうした学びをまとめていこうと思います。

EMとは何なのか

「EMとは何なのか」にひとことで答えるなら「組織の目標達成に向けて組織の成果を最大化するエンジニア」が私のいまの答えです。よって、EMは自分が責任を負う組織に良い目標が設定されているかを真っ先に確認するべきだと考えます。目標がなければ達成も成果も何もないわけですから。ここが不足しているなら、まずは上司やPOといった共に目標に責任を負っている人と対話をし、場合によっては自らの手で目標を掲げる必要があるでしょう。

EMの日々の振る舞いとしては、目標達成に近づくあらゆるアクションが正解になり得ると考えます。EMは「組織の目標達成に向けて組織の成果を最大化するエンジニア」であって、手段によって定義されるものではないという考え方です。ここに形式的な正解を求めると、マネージャー論やリーダーシップ論、その他の関連領域が無数に広がっており、とても学びきれない大海に放り出されてしまいます(私は実際に航海に出て3ヶ月ほど彷徨い続けました)。それよりも、少し近視眼的に、組織の目標達成のために必要な手当てをしていくとだけ腹に決めて始める方が、地に足のついた振る舞いをできると感じています。だからこそ最初の目標設定がより一層重要です。自分が組織の目標を心から納得し、その目標に没頭できていれば、課題は自ずと感じるものですし、ちょっとしたプラクティスの再発明くらいは案外できてしまうものです。

とはいえ手札が多いに越したことはありません。課題に先立ってベストプラクティスから始めていけないという法はないですし、スタート地点が良い方があとの課題を解決するのも簡単なことが多いです。EMの有力な手札をマネジメント領域に分類し網羅する試みはいくつかあり、私は以下の2つを見たことがあります。

私は特に前者を自分のメンタルモデルとして活用しており、マイスキルマップでエンジニアとしての己を見つめ直すでは自分のスキルを4軸に当てはめて整理しました。最近はエンジニアリングマネージャーに関する書籍も増えているので、そうしたものも参照しつつ、なんらか自分なりのメンタルモデルを持ち、自分の興味や得意、組織の課題に合わせて少しずつ手札を増やしていくしかないと考えています。

チームとメンバーを機能させ育成すること

経験と知識が豊富なシニアな存在として「組織の目標達成に向けて組織の成果を最大化」しようと考えると、持続可能性やスケーラビリティの観点から、委譲によって仕事の実行を手放していくことが最適解になる場面が増えていきます。また、組織の目標を志向する過程でそれをエンジニア個人の目標にブレークダウンする責任も同時に負うことになったり、より広い意味でのマネージャーとして人事評価や育成を任されたりもします。こうしたことを考えると、EMを手段によって定義しないと述べたものの、チームとメンバーを機能させ育成することは実質的に必須の仕事になると考えます。

「結局EMはピープルマネジメントをするロールじゃないか」という声もありそうですが、私はそれは芯を食わない指摘だと考えます。あくまで手札のひとつであることに変わりはないですし、そもそもどんな道を進もうが、経験と知識を備えて大きなことを達成しようと考えた時、人を育てて必要な仕事をやってもらうことは必須の技能であるはずです。マネージャーだから人を育てる仕事が求められるというよりは、そのロールに期待される規模の成果を出すには、自然と人を育てることが正攻法になってくるのだと理解しています。テックリードやICのキャリアを歩む人も同じ景色を見ることになるはずです。

以上の思考からチームやメンバーの育成に向き合うことに腹落ちしつつある私ですが、実際に取り組んでいくにあたって重要だと認識したことがふたつあります。

ひとつは対象の状態にあわせたアプローチを行うことです。何かひとつ固定の振る舞いをするのではなく、相手がジュニアなら手厚くティーチングを行い、相手がシニアなら自律性を引き出すコーチングを行うといったことです。こうしたやり方は、エンジニアリングマネージャーのしごと3章の委譲に関する議論や、エラスティックリーダーシップモデル、SL理論など様々なところに現れており、現代のベストプラクティスとして意識するに値するでしょう。また、対象の状態に合わせたアプローチを行うためには、対象の状態をよく把握しなければなりません。観察や傾聴といったメタスキルも同時に重要になってくるはずです。

もうひとつは、狙ったマイクロマネジメントを行うには強い意志が必要だということです。新米マネージャーが意図せずマイクロマネジメントを行い、メンバーの自律性をつぶしてしまうというのは良くある失敗談ですが、ひとたびマイクロマネジメントから離れると、今度は狙ってそれを行うのが非常に難しくなると感じます。理由はいくつか考えられます。丸投げしてしまった方がやることも考えることも少なくて楽ですし、その間に自分は自分で他の仕事ができるのでリソース効率が上がるように見えるし、理論的には手放している状態の方がハイレベルなので(機能していなければ全く意味がないのですが)そちらを目指したくなるという心理もあるでしょう。マネージャーをマイクロマネジメントから遠ざけるバイアスが様々あるという前提で、強い気持ちでマネジメントスタイルを選択していく必要があると考えます。

まとめ

会社のロールとして正式にEMになったこのタイミングで、改めて自分の経験と知識を踏まえて「EMとは何か」という問いに回答し、自分が思う姿から必然的に導かれる「チームとメンバーを機能させ育成すること」について論じました。

2年ほど前からEMを志向し、多くのインプットや素振りを行った自分ですら、いざEMというロールを受け取ると難しさに直面しました。まして準備のないエンジニアを突然マネージャーに任命するとなれば、大変な混乱と衝撃がもたらされることは想像に難くありません。自分の後に続く人を増やしていくためにも、組織として計画的なマネージャーの育成が重要になっていくはずなので、今後もEMや関連領域に関する学びを発信していこうと思います。