yigarashiのブログ

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EMがユーザーインタビューをやって生まれたバリュー

わたしは現在、新規事業チームのEMをやっています。その仕事の中でユーザーインタビューが自分の得意技になりつつあり、思わぬ形でEMとしてのバリューを高めることができています。「XXもやるYY」というのはエンジニア界隈で良くある売り文句ですが、「ユーザーインタビューもやるEM」はあまり観測しないように思ったので、そのバリューについて書いてみようと思います。

ユーザーインタビューが得意技になるまで

ユーザーインタビューはUXリサーチにおける代表的な手法です。特にこの記事では、ユーザーの状況や課題を掘り下げるための半構造化インタビューを指すことにします。「1日の仕事の流れを教えてください」といった大まかな台本を用意しつつも、会話の中で得られた情報から「それが大変なのはなぜですか?」などと、自分たちの仮説検証に資する方向に柔軟に話を進めて情報収集するアクティビティです。

特にプロダクトの初期段階の不確実性に対するアプローチとしては随一で、週に5件、10件と回していくことも珍しくありません。我々のチームもご多聞に漏れずインタビューを回しまくっており、インタビュワーが重宝される状況でした。1on1や面接を通して傾聴スキルに覚えはありましたし、ユーザーインタビューを横で見る機会はそれなりにあったので、チームを助けるためにチャレンジすることにしました。

結果としては、自分のスキルをうまく転用できたのか、チームの仮説検証を前進させるインタビューを実施できました。掘り下げ方や会話のスムーズさ、得られる情報量など、インタビューの質に関してチームメンバーからポジティブなフィードバックが多く、どうやらかなり上手くやったようでした。その後もインタビューを重ね、別のチームでもインタビュースキルが機能することを確認し、自分の得意技と認識するに至りました。

生まれたバリュー

まずはチームとして「インタビューをうまくやれる」ということ自体が直接の大きなバリューです。仮説検証を前進させるための要なので、ここがうまくできるかでチームの成果は変わってきます。しかし、それだけではない間接的なバリューも多くありました。

成果の高いユーザーインタビューを行うには入念な準備が欠かせません。半構造化インタビューなので、単にスクリプトを工夫すれば良いわけではなく、仮説検証と相手の発言を紐づけてその場で引っかかる能力が必要です。「知りたいことがあって、そのために話を聞いている」ことを腹落ちしなければ得られない能力です。そのためには、チームがいま把握しているユーザーの状況や、チームが回している仮説検証の情報を自然と深く咀嚼することになります。

こうした活動を通して、PdMと対等に話せるレベルでユーザーと仮説検証を理解することになります。情報を共有してもらっているゲストではなく、自分も知識を運用してPdMと伴走できるようになります。新規事業は特に「何を作るか」が組織の成果を支配するので、そこに適切に働きかける能力は、誰であろうが持っているに越したことはありません。

また、顧客に実際に触れることで、どういう人にどういう意図で価値を届けるかを解像度高く把握できるので、PMFへの道のりがツーカーで通じるようになります。事業計画への助言やエンジニア組織の采配の精度も上がります。他の開発メンバーが、顧客のどういう知識を持っているとよりうまく判断できるかもよくわかるので、ディスカバリーとデリバリーを近づけるためのツボも前より理解できたように思います。

他業務への良い影響

もとは1on1や面接で培った傾聴スキルからユーザーインタビューに取り組んだわけですが、逆にユーザーインタビューを経験することで、他の業務の精度も上がったように思います。

最も見え方が変わったのは採用面接です。これは「相手が自社のカルチャーに馴染んで、成果を高めることに貢献するはずだ」という仮説を検証するインタビューに他なりません。これまでも工夫がなかったわけではないのですが、半構造化インタビューのノウハウを思わぬところで学んだことで、自分の中に信頼できる芯ができました。以前よりも、自分が特に集めるべき情報に腹落ちしながら、相手からうまく情報を引き出す問いを発することができるようになったと思います。

1on1においても、以前より一段と曖昧なキーワードや因果関係に敏感になることができ、相手の思考のリファクタリングをするきっかけを多く掴めているように思います。たとえば「すごく難しくて」という言葉を聞いて、掘れそうなポイントだな、何が難しいのかな、「すごく」って具体的にはどのくらいかな、そう思わせる要因は何かな、といった思考が浮かぶようになったのは、自分のキャリアにおいてありがたい贈り物だと思っています。

まとめ

この記事ではEMである自分がユーザーインタビューをやって生まれたバリューについて書きました。最初は自分がやる仕事なのかと懐疑的な部分もありましたが、プロダクトマネジメントに良い影響を与える能力を獲得し、EMとしても視座を上げることができました。また、インタビュースキルを転用できる採用面接や1on1においても良い影響を確認できました。今ではやって良かったなと思えています。

とはいえ、だからEMはみんなユーザーインタビューをやろう!という話ではないことに注意してください。EMへの期待は事業フェーズや組織ごとに異なります。ユーザーインタビューをするよりも組織の成果を高められる手段があればそれをやるべきです。私の場合は、新規事業という文脈においてユーザーインタビューがやるべきことに見えたというだけの話です。私がユーザーインタビューから得たバリューは他の手段でも得られるでしょう。

私が言いたいのはもうちょっと抽象的な話で、何がどう自分を助けるかは分からないので、やるべきことならなんでもやってみると良いんだろうなということです。組織の成果のために、コンテキストをよく観察し、自分を柔軟に変化させられるEMでありたいものです。