yigarashiのEMブログ

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プロダクト開発チームの分断に立ち向かう

先日のRSGT2023で以下の発表がありました。「自分がそれほどプロダクト開発に興味がないことに気づく」は自分自身にも心当たりがありますし、プロダクト開発チームのリアルを言語化した発表だと思いました。この発表では、そうした言語化を受けてどうするのかについては深く触れられておらず、回答は聴衆に委ねられていることから、さらに議論を広げてみようと思います。

実際問題、真に興味を持つのは大変

現代のプロダクトマネジメントは、ひとつの深遠な専門領域になっていると思います。「本が1冊書ける」なんてレベルではありません。何百冊、何千冊と書ける世界です。そうした専門知識を組み合わせ、市場とユーザーとプロダクトを徹底的に分析し、データに基づいて仮説検証を繰り返し、それを自分のプロダクトに接続する方法を捻り出して、ようやく少し尤もらしい方向に近づきます。とても過酷な領域です。

ここにエンジニアが越境して興味を持つのは大変なことだと思います。もちろん程度の差はあって、特にtoCのサービスなんかであれば、ドッグフーディングをして「こうした方が良いんじゃないか」と意見を持ったり、実際に工夫をして貢献できる人はたくさんいると思います。しかし、ユーザーインタビューの結果を分析して示唆を抽出したり、データ基盤を叩きまくって有力な仮説を捻り出したり、そういうプロダクトマネジメント的なやり方にまで興味を持ち、咀嚼し手を動かすとなると話は別です。エンジニアとしてキャリアを始めて、そういった部分にも「興味がある」と自認できる人はそう多くはないでしょう。多くのエンジニア組織がデリバリーマネジメントやピープルマネジメントを担う人材に困るのと同様のことがプロダクトマネジメントにも当てはまると思います。

興味がないものを興味を持てと言ったって仕方がないので、これは組織が認めなければいけない前提だろうと思います。プロダクト開発チームには基本的に分断する方向に力が加わっていて、自己組織化の文脈でチームにプロダクトマネジメント能力を実装するのも困難で、「じゃあどうする?」というのが議論の出発点ということです。

専門性は違うけど力を合わせる

件の発表においても、イシューからはじめよを引用して、解く問題の価値(ディスカバリー)と解き方の質(デリバリー)の両方が必要と論じています。プロダクト開発においてディスカバリーとデリバリーという大きなふたつの専門性があるのもまた真です。それをどのくらい重ね合わせられるかという問題に帰着すると、議論が整理されるように思います。

2つの専門性を全く重ね合わせないのが、まさに「分断」された状態です。デュアルトラックアジャイルを志向するチームが一度は通るアンチパターンではないかと思います。ウォーターフォール型の社内受託のような形になり、ディスカバリーからデリバリーへの接続が不快な行事になります。エンジニアは内心魅力的だと思っていないものを渋々受け取ったり、そもそも実現不可能な仕様で何度も突き返されたりと、イヤなことがたくさん起こります。質は上がらないし、リードタイムもどんどん伸びていくし、非常につらい状態だと言えます。

反対に2つの専門性を完全に重ね合わせたのが究極の世界です。全員がコードも書いてプロダクトマネジメントもする状態です。もちろん実現すればすごいことですが、先に述べた議論からスキルビルドや採用の問題に阻まれて上手くいかないでしょう。これができるなら誰も苦労しないのです。

「要はバランス」という話になってしまうわけですが、良いものを良いやり方で届けることを共通の目標として、チームメンバーの興味や能力が許す範囲で2領域を重ね合わせることで、「専門性は違うけど力を合わせる」という空気を醸成していくのが現実的な落とし所になっていくと考えます。分業や分断という言葉で捉えてしまうとネガティブな印象になってしまいますが、そもそもプロダクト開発は均質な人材でカバーできるほど簡単な世界ではないようにも思います。専門性を分担して掘り下げて力を合わせるという考え方をして、お互いに越境を称え合えると良いですね。

具体的な取り組み

「専門性は違うけど力を合わせる」という観点で、自分のチームで実施されている取り組みを紹介します。

まず、エンジニアが施策立案の早い段階に参加する仕組みがいくつかあります。ひとつは、PdM - リードデザイナー - テックリードによる30分x2/週の定例です。ここでおおまかな実現可能性を壁打ちすることで、Value/Effort比の見積もり精度を上げたり、筋よく実現できる方向に軌道修正したりします。

もうひとつは、スプリントの作業として相談時間を積んでしまうものです。特に不確実性が高い施策で採用されやすく、エンジニアの誰かが早い段階で専任で議論に入り一緒に磨いていきます。フットワークを軽めに維持しつつ、設計や着手までスムーズに接続しやすく、最近チーム内ではアツいやり方です。

また、リファインメントのなかで多職種で議論する時間を「スーパークリエイティブコラボレーションパート」と呼ぶようにしました。バカみたいだと思うかもしれませんが、これによって議論の雰囲気はかなり変わった感触があります。リファインメントはPdMが持ってきたアイディアを品定めする時間ではなく、全員がアイディアを出し合って価値を最大化する時間であるということを表現できたと思います。全く詳細が決まっていない施策の卵も議論の俎上に上がるようになり、プロダクトマネジメントを多少は加速できているはずです。

他にも、デザインスプリントや、プロダクトゴールの念入りな周知、リファインメントの時間の拡充、スプリントレビューのインタラクションの改善など、さまざまな施策が打たれています。チームが一体となってプロダクトを作っている感触が増し、提供する価値の手応えも少しずつですが良くなっています。

まとめ

RSGT2023の発表を受けて、プロダクトマネジメントをチームでやっていく難しさをさらに掘り下げることで、「専門性は違うけど力を合わせる」という現実的な目線を提示しました。その上で、自分のチームでやっている具体的な改善の取り組みを紹介しました。発表で提起されているプロダクトの成長に伴うPdMのボトルネック化に対してはイマイチ答えられておらず、まだまだな思考ですが、まずは自分なりに議論を広げてみました。