yigarashiのブログ

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EMキャリアを切り拓く「最強の現場リーダー」という働き方

このエントリはEngineering Manager Advent Calendar 202213日目の記事です。

まえがき

このエントリは、以下のPodcastで話した内容を掘り下げて整理したものです。Podcastの方では本エントリで触れていないチームの具体的な様子等についても話しているので、ぜひ合わせてお楽しみください!

はじめに

以前、エンジニアリングマネージャーを目指す若者の戦略というエントリを書きました。その時点でのエンジニアリングマネージャー(以下EM)というロールへの理解や、実際にEMを目指していくための戦略を整理したものです。

素晴らしいことに、このエントリの投稿からおよそ1年3ヶ月たった今も戦略は機能しており、ロールへの理解を深めつつキャリアを前進させることが出来ています。本エントリでは、EMというロールへの理解の変化や、EMを志向する過程で目指している「最強の現場リーダー」という働き方について書いていきます。

EMについての理解

まず、ソフトウェア開発において以下の4つのマネジメント領域があるという捉え方は、前回のエントリから変わっていません。

EMとは、チームや組織にこれらのマネジメント能力を実装し、組織やプロダクトが生み出す価値を大きくし、メンバーの幸福度を高めるロールであると理解しています。達成の方法は任意で、自らが手を動かして牽引しても良いし、他者に委譲しても良いし、自己組織化を通じてチームがカバーするように仕向けても良いです。マネージャーではあるので、人への働きかけによって間接的に大きなインパクトを与えられる方が望ましくはあるでしょう。また、4領域のどこまでをカバー範囲とするかも、当人の能力や各組織のEMに対する期待によって変わってくるはずです。私がこのモデルを知った広木大地さんの記事でも、そのカバー範囲によって「強めのEM定義」と「弱めのEM定義」が提示されています。

最近のアップデートとしては、エンジニアリングマネージャーのしごとの登場で、人をマネジメントする典型的なマネージャーとしての像が少し際立った印象を持っています。もちろんそこに書かれているテクニックや考え方は優れたものですし、それらが主務になっていくのはロールの性質から考えて自然なことだと思います。EMのトレンド?もしくはその兆し (2022年)でも、人や組織に向き合う専任のマネージャーロールが増えつつあるのではという仮説が提示されており、肌感としては納得できます。

一方で、Engineering Managerをエンジニアのマネージャーとするのはやめませんか? - Unknown Errorでも語られているように、評価や1on1、採用はあくまでEMの責任を果たすためのツールであるという見方もあります。EMにどういった成果を期待するのか、EMとしてどういう働き方をしたいのかといった点は、依然として考え続けなければいけないだろうと思います。

EMキャリアの進捗 - 最強の現場リーダーという働き方

前回のエントリでは、まずは弱めのEM定義を志向して、以下のような優先度で取り組む戦略を提示しました。

現状はおおよそこの通りにキャリアを前進させられています。

  • テクノロジーマネジメント
    • 2022/2にチームのテックリードを拝命しました。非機能開発の計画を立てたり、大きな施策の設計を行ったり、壁打ちやレビューを通してシステムの品質の維持・向上に努めたりと、一般的なテックリード業を地道に遂行しています。最近は、一部の定常業務や単発の設計業から他メンバーに委譲し、負荷を軽減しつつ成長機会を狙って配ろうとしています
  • デリバリーマネジメント
    • チームのスクラムマスター的なロールを務めています。こちらの発表で紹介した形でスクラムを軌道に乗せることに成功しました。現在はチーム全体の改善を引っ張るロールを別のメンバーに委譲し、そのメンバーの壁打ち相手となることで間接的な働きかけに挑戦しています
  • ピープルマネジメント
    • チーム内外で合わせて5名のエンジニアのメンターを務め、隔週の1on1や日々のコミュニケーションを通じたメンタリングをしつつ、人事評価プロセスの一部を担っています

このように、方法不確実性への対処を担うテクノロジー、デリバリー、ピープルの3領域を中心に、プレイヤーとマネージャーの振る舞いを使い分けながら飛び回っています。自分が関わることでチームのあらゆる仕事がうまくいく、自分と関わった人が楽しく成果を挙げて成長していく、そういう「最強の現場リーダー」を目指して日々仕事をしています。

この働き方の最大の魅力は、各領域を接続して自由にコントロールできることです。たとえば、メンバーとの1on1で得意分野や気になっている課題・技術について聞いたら、それを素早く非機能開発のバックログに反映することができます(ピープル - テクノロジーの接続)。重要な基盤刷新のプロジェクトがあれば、スプリントごとのベロシティの内訳を詳しく集計するように変え、一定の割合で工数が投入されるようにコントロールしたりできます(テクノロジー - デリバリーの接続)。このように開発全体を自分ごとにしてしまうことで、仕事をうまく進めるための手札がどんどん増え、日々たくさんの学びを得られています。

一方で、この働き方には良くない点があります。それはとてもハードなことです。毎日全速力で走って、たまにちょっと余分に走って、ようやく納得できるクオリティの仕事ができています。3領域のバランスを自分の中で取って、メンバーの思いとチームとしてやりたいことを擦り合わせて、尖ったイノベーションが起こるようなダイナミックな采配もできるように……とさまざま考えていると心労が絶えません。仕事が好きで、家庭を持たず、心身が健康な、いまの自分だからこそ成立する働き方であると思います。領域ごとに違うメンバーへの委譲を目指したり、僕の背中を見てプレッシャーを感じるメンバーに説明をしたりと、この働き方が禍根を残さないように気を配っています。(一応ですが、全て望んで拝命したロールで、調子が悪い時は自分のメンターにいつでもエスカレーションして負荷軽減する体制は整っています)

EMキャリアの次の戦略

複数のマネジメント領域に目を配り、ときどきマネージャー仕草を交えてチームを引っ張る「最強の現場リーダー」という働き方は、EMへのステップとしてかなり良くできていると思います。この働き方を以ってEMであると考える人もいるかもしれません。実際、前回のエントリで「EMになりたい」と言って思い描いた働き方はだいぶ実現しつつあります。大きな方向はおそらくこのままでよく、各領域のスキルを磨きつつ、視座を上げて影響範囲を広げていくことで、多くの組織のEMポジションに手が届くだろうと見ています。

テクノロジーマネジメントでは、枯れた解法を組み合わせた無難な采配だけでなく、先頭集団に追いついたり、率先して技術を切り拓いたりと、もっとエンジニアリングを楽しむ仕事を増やしたい思いがあります。自分の中で最も思いと行動が乖離している部分ではあるのですが、思いだけはあります。そのためには、当たり前品質を素早く繰り出せるようにし、知識をバランスよく増やし、有力な技術の素振りをし、とにかく筋肉をつけていくしかありません。これは一朝一夕では成し得ません。自分が納得するスキルを獲得するための作戦を練っていきたいと考えています(何度も考えては頓挫しているのですが……)。

ピープルマネジメントでは、現状5名のメンタリングを行っていますが、その範囲でもまだまだ伸び代を感じます。モチベーションを削ぐような言い方をしてしまったとか、自分の思い込みで話してしまったとか、その日を振り返ってグッと唇を噛みたくなるような失敗が絶えません。またEngineering LaddersのPeople軸を見ると、mentorsの先にcoordinates、managesという段階があり、メンバー間のコミュニケーションに働きかけたり、各メンバーにより深くコミットするような振る舞いがあることがわかります。またチームメンバーとのコミュニケーションだけでなく、採用やリソースマネジメントといった方向への広がりもあるでしょう。メンティーに誠実に向き合いマネージャーとしての地力を底上げしつつ、スキルが広がる機会には積極的に手を上げていこうと思います。

デリバリーマネジメントは、3年ほど最高優先度で取り組んできたこともあり、経験と知識が一番豊富です。チームの状況もひと段落していることから、緊急度の高い領域ではなくなっています。今後はチームの中で大きな仕事をするというよりは、影響範囲を広げる方向に伸び代があります。あまり焦らずに、情報収集や社内でのコーチング、外部登壇で少しずつスキルを伸ばしていこうと思います。

また、「最強の現場リーダー」として飛び回っていると、良くも悪くもチームに対して非常に大きな影響力を持つことになります。素早く力強いリードが可能な反面、一歩間違えば、自分の価値観や能力でチームのバリューを制限してしまうこともあります。自分が知らないことや理解し難いことも成果に接続できるのが理想です。これを上手くやるには指揮統制型のリーダーからサーバントリーダーへと変化していく必要があるでしょう。各領域のスキルだけでなく、それらと直交する自分の振る舞いにも磨きをかけ、ひとの力を引き出せるリーダーを目指します。

まとめ

本記事では、現状のEMというロールへの理解と、キャリアのステップとして志向している「最強の現場リーダー」という働き方、それらを踏まえた次のキャリア戦略についてまとめました。

大方針では依然としてEMを狙っているわけですが、「最強の現場リーダー」という働き方も理想に近い状態なので、あえて急いでマネージャー方向に全振りしなくても良いかもしれません。(翻訳) エンジニアとマネージャの振り子 - ふしみのブログで述べられているように、このキャリアの分岐は不可逆なものではないでしょう。それどころか、意図して何度も行き来することがキャリアを切り拓くかもしれません。チームで飛び回る働き方も、ひとに働きかける仕事も好きなので、そのあたりは巡り合わせに任せて、地道に自分のレベル上げをやっていこうと思います。