はじめに
これまで自分のEMとしてのキャリアや考え方の変化について書き留めてきました。
前回の記事からおよそ8ヶ月。当時は想像もしなかった様々な経験をし、またひと回り成長できたと感じられるタイミングが来たので、内省を深める意味でも自分の近況をアウトプットしてみたいと思います。
EM"完全に理解した"
ここ半年ほどはとても苦しい期間でした。いわゆる"完全に理解した"(ダニング=クルーガー効果における最初の山)を越えたのか、何をやってもしっくりこない、うまくできている気がしないという感覚に苛まれました。EMは組織の成果を最大化するためにあらゆることをするエンジニア、そして主要な手札は一般的なマネージャー論や、広木大地さんが提唱する4象限、Engineering Management Triangleによって整理されている……そういう教科書的な理解はあっても、自分がうまくやれているという感覚には結びつきませんでした。自分を取り巻く状況も目まぐるしく変わり、慣れないプロダクトマネジメント領域に出張したり、新チームを立ち上げたり、その傍らさらに別のチームに参画したり、コンフォートゾーンから繰り返し飛び出したことも関係していたでしょう。
そうした大嵐を駆け抜け、今は少し自信がある状態に変化しました。少なくとも自分が置かれている変化の激しい環境において、どうすれば成果を大きくできるか、自分なりの考えを構築しつつあるように思います。その内容の普遍性や理論との対応はまだ十分に整理できておらず、状況が変われば的外れな主張になることもあると思いますが、まずは自分の言葉で書き進めてみようと思います。
事業を深く理解し貢献する
EMとして組織の成果を大きくし、組織の目標を達成するためには、事業の深い理解が重要だと腹落ちするようになりました。顧客の詳細な状況と課題、ソリューションの世界観と確度、仮説検証の計画、顧客の分類やリーチ状況、プロダクトと売り上げをいつ頃にどんな状態にしたいのか、それが誰の要請でどういったコミットメントになるのか、使えるリソースはどれほどなのか、リソースのコントロールは可能なのか……自分がいま届く事業の深い理解とはこういったものです。事業責任者と少しでも同じ景色を見て、少しでも同じ情報を使って思考をすることで、自分と組織の目標を一体化し、効果的な采配を自律的に生み出せる度合いが上がったように思います。開発チームはいつごろどんな能力を備えていたいか、このまま進んで組織は目標を達成できるのか、そういったことを上滑りせずに考えられるようになったと感じます。
こうした振る舞いを獲得するにあたって、プロダクトマネジメントに頭まで浸かる経験が非常に重要でした。ユーザーインタビューを通して顧客に会い、ソリューションをチームで考え、PdMと戦略を語り、寝ても覚めてもプロダクトのことを考え続けました。事業を理解している状態とはこういうことか!と感覚を掴み、その理解から発想される采配の精度の高さに手応えを感じることができました。また、プロダクトマネジメントを本気で自分ごとにできたおかげで、その領域の良書と言われる書籍群を深く読み込んで血肉にする機会も得ました。
いずれも現場リーダーとして遠巻きに事業を見ているだけでは得られなかった機会で、なんでもやってみるものだなと思わされた半年でした。
OODAループで変化を乗りこなす
ここ半年で、自分の振る舞いや判断が強く文脈に依存していることを自覚するようになりました。自分が何かをすべきと思っても、それはあくまで個人、組織、事業のその時の状況に基づいた判断であり、状況が変われば判断も更新するということです。情報が増えたらゴールを変える必要があるかもしれないし、プロダクトのフェーズが変われば取るべき手法も変わってきます。上に述べたプロダクトマネジメントに軸足を置いた振る舞いも同様に普遍的なものではないでしょう。チームマネジメントの観点ではSL理論やエラスティックリーダーシップなど、対象の状態に合わせて振る舞いを変えるやり方は鉄板です。
こうした変化への適応をうまくやるために、観察と更新を自分の中で仕組み化することにしました。まず手元のドキュメントに、自分が見ているチームと個人それぞれについて、どういう状態であるか、気にしていることは何か、自分はどう働きかけるかをまとめておきます。そして同様にチームと個人それぞれについて、週ごとに気づいたことをなんでも書き留めるコーナーを作ります。あとは毎週金曜の夕方に、書き留めておいた気づきを見ながら、それぞれの対象が目標を達成できるか、自分の気にするポイントや働きかけ方を変える必要があるかを考えて、最初にまとめておいた自分の認識・判断を更新します。
かれこれ2ヶ月ほど続けていますが、とてもうまく機能していると感じています。マネジメント対象が増えてきたので単純に情報整理としても良いですし、自分の振る舞いを高頻度に指差し確認することになるので、楽な方(自分の場合は細かく指示をするほう)に振る舞いが流れないよう意識しやすくなりました。自分の気になりごとや問いかけを磨く時間も増えたので、メンティーの行動変容につながる1on1も増えたように思います。目標達成に関する問いかけを軸にしているので、成果志向を忘れることもありません。ついでに事業計画など中長期スコープのフックも一緒に置くことで、様々な時間軸でマネジメント対象を考える時間を取れるようになりました。
このやり方を表す一般的な概念として、自分は「OODAループ」が一番しっくりきました。観察(Observe)、方向づけ(Orient)、決定(Decide)、実行(Act)のループで、変化が激しい環境に適応するために有効なモデルとされています。自分がやっているのは、観察を書き留め、自分の振る舞いの方向性を調整し、状況に合った働きかけを決め、実行に移す……まさにOODAループです。
おわりに - 優れたEMを目指して
Google re:Work - ガイド: 優れたマネージャーの要件を特定するにおいて、優れたマネージャーは組織の生産性と満足度を高めるとあり、自分はこの論を体現するひとりになれているだろうかとよく考えます。マネージャーは必要だと成果で語れる存在でありたいし、ここ半年ほどで自分に備わったスキルはそれに足るものであると信じています。まずは今の仕事を一層うまくやっていくのが自分の行動方針です。しかしさらにその先で、より広く、より深く働きかけるには、異なる状況での経験、より大きな絵を描く力、メンタリングスキル、システム思考、チェンジマネジメント、忍耐力などなど、まだまだ伸ばせるスキルがあるように思います。組織の成果を大きくする優れたEMを目指して頑張っていきます。