yigarashiのブログ

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「Measure What Matters」を読んで思うOKR導入の困難さ

ここ半年でメンティーを2名持ち、1on1によるメンタリングと評価プロセスの一部を担っています。その過程で、目標設定や評価をもっと良くしたいと思うようになりました。せっかく時間を使うなら、成長を支援する、パフォーマンスを引き出す、上位の目標を意識させるといった目的をより高いレベルで達成したいものです。OKRというやり方があることは知っていたので、エンジニアリングマネージャー必読の翻訳書 7選 - Yusuke Ando a.k.a yandoで紹介されていた「Measure What Matters」を読んでみました。

学んだことの概要

組織として目標に向かって高いパフォーマンスを発揮するために、「目標("O"bjectives)」とそれを達成するための計測可能な「主要な結果("K"ey "R"esults)」のツリーをつくり、CFR(Conversation、Feedback、Recognition)による継続的パフォーマンス管理で頻繁な検査と適応を行います。OKRの主な効用は以下の4つとされています。

  • フォーカスとコミット
    • 少数のObjectivesを定めることになりフォーカスが生まれます。また、集中すべきポイントが明らかになり、そこに計測可能なKey Resultsが組み合わさることで強いコミットメントが生まれやすくなります
  • アラインメントと連携
    • 経営陣から末端のコントリビューターに至るあらゆるレイヤーで、目標に向けて意識を統一することを「アラインメント」と言います。OKRでは、一部の目標や全ての主要な結果をボトムアップに設定することで、社員のエンゲージメントを高めながらアラインメントします。またOKRの設定をオープンなプロセスにすることで、達成すべき共通の目標が明らかになり、チームや部門を超えた連携が生まれやすくなります
  • ラッキング
    • Key Resultsを計測可能なものにすることで進捗をトラッキングすることが容易になります。それにより、頻繁に設定したOKRを適切なものに調整することができます
  • 驚異的な成果へのストレッチ
    • OKRを報酬と切り離し、一部のObjectivesを野心的にすることで、驚異的な成長やイノベーションを生み出す土壌を作ることができます。書籍中では、Objectivesは設定時点では実現困難に思えるものにする、達成にコミットする目標と野心的な目標を明確に分けるといった事例が紹介されています

ざっと読んだ感想としては、目標管理におけるアジャイルなやり方という印象で、非常にシンプルでパワフルなツールだと思いました。OKRをうまく運用することができれば、熱量と規律を兼ね備えた働きがいのある組織になるイメージを持ちました。しかし一方で、OKRが機能するための条件は非常にレベルが高く、導入するのは簡単ではないと感じました。以下に気づいたポイント列挙して、もう少し思考を深めてみようと思います。

OKR導入で難しそうなポイント

リーダーの向上心が前提

OKRは、リーダーに狂気的な熱意があり、社員を動員して最大限のパワーを引き出して、なんとしてでもプロダクトを成長させたいと思う時にこそ役立つものだと思いました。リーダーが徹底して目標にコミットする姿勢を見せることで、それがコントリビューターにも伝播しハイパフォーマンスな組織になっていきます。反対に、リーダーが大きな成長を志向しなかったり、目標へのコミットメントが弱かったりすると、OKRを機能させるのは難しいように見えました。というかそもそも、そういったぬるい環境ではOKRを運用する必要すらないでしょう。

プロダクトに関する豊かな共通理解が必要

OKRではKey Resultsをボトムアップに定めることが推奨されているようです。必要十分で計測可能なKey Resultsを定めるためには、ビジネスモデルやKPIツリー、プロダクトの理解が欠かせません。ある目標を達成するために、どの指標やプロダクトの側面に着目すれば良いのか、自分の職能で何をしたらそこに貢献したことになるのかといったことを、誰もがよく知る必要があります。これは容易なことではないでしょう。

個人のKey Resultsという矛盾

現代的なアジャイル開発の文脈では、ひとりで何かを達成するのは基本的にバッドプラクティスです。コラボレーションを重んじチームとしてゴールを達成するのが良いとされています。こうしたやり方の中で、個人で完結するKey Resultsをうまく定めるのは難しく感じます。チームのKey Resultsをそのまま持つのがひとつの案ですが、当事者意識やコミットメントが弱まってしまうようにも思います。

報酬をどうやって決めるのか

OKRは報酬と切り離すことで野心的な目標設定やイノベーションを促進するとされています。一方で、OKRを導入しようとする企業では、報酬と密接に紐づいた旧来の評価制度を置き換える文脈でOKRが現れることが多いと思います。つまり良い形でOKRを導入しようと思うと、OKRは評価制度とは別であることを懇々と説明し、さらに「報酬はどう決めるのか」という問いにも改めて答えなければいけません。これは容易な変化ではないでしょう。少なくともボトムアップでどうにかなるような問題ではないと感じます。

まとめ

OKRがパワフルなツールであるという学びを得たものの、基本的には高い視座からの経営やマネジメントのためのツールであるので、自分の道具箱にはまだ収まりきらない印象でした。導入にあたっても多くの障害物がありそうです。目標管理でも、透明性、検査、適応、確約といった概念が現れているのは面白く、不確実な世界で成果を挙げるためのポイントを抽象化して捉えられたのは収穫でした。